第四章
 
「ん・・・・」
 唯は、ゆっくりと目を覚ました。床に手を突いて体を起こし、周囲を見回す。
 そこはどうやら、地下室のようだった。打ち放しのコンクリートが四方を囲っている。一方に、扉があった。
 しばらくボーっとしていると、扉の向こうから、男女の声が聞こえてきた。どこかで聞いたような気がする。
「うわはははっ、でかしたぞ、ジーナっ! 頭にバニーガールの耳を付けてくるとは、なかなか俺の趣味が分かってきたぢゃないかっ」
「いえ、最初っから付けてたんですけど・・・・そーゆーのが趣味なんですか
 後から聞こえた女の声は、先刻出会った褐色の肌の少女のものだ。状況から考えて、彼女にさらわれたらしい。しかし、最初に聞こえた男の声、こちらもどこかで聞いたような・・・。
 唯はそんなことを考えながら、扉へ顔を向けた。ドアが開き、男が姿を現す。
 男の顔を見たとたん、唯は大声で叫んだ。
「ああーっ、あんた、大月圭太郎ーーーっ」
「なっ、なにっ? ・・・・って、そう言うおまえは、日宮唯っ!」
 圭太郎と唯は、互いを指差して叫び合った。ジーナは、少し驚いた様子で圭太郎を見る。
「ご主人様のお知り合いでしたか?」
「うむ、まぁ、幼なじみだ。けんか友達というか・・・腐れ縁でな。ずっと学校も一緒なのだ」
 圭太郎の説明を聞き、ジーナの頭に「幼なじみの美少女+けんか友達の同級生=将来の恋人」というラブコメ的図式が浮かんだ。何となくムッとするジーナちゃんだ。
 ジーナはプンと横を向き、半眼でつぶやく。
「ふ、ふーん。そうですか。良かったですね、かわいいガールフレンドがいらっしゃって」
「いや、そうじゃない。本当に彼女はただの幼なじみで・・・・・」
 圭太郎はそう言いかけて、少し考え込んだ。
「・・・って、何で俺がおまえに浮気の言い訳じみた弁解せにゃならんのだ
 ゲシッ、と容赦ない蹴りが入る。
「はうぅっ、ご、ご主人様、ひどいぃ」
「・・・・・・」
 唯は、そんな二人の様子をしばらく呆れ顔で眺めていたが、状況を理解するに従い、その表情が次第に険しくなっていった。
「圭太郎っ・・・・あんたっ・・・・悪魔と手を結んだのっ?」
「いや、手を結んだというか、無理矢理従わせてるというか
「じゃ、あんたが、この悪魔に精気を吸わせて、人を殺したのっ?」
「は?」
 圭太郎は眉根を寄せた。しばらく考え込んだ後、ジーナの方を振り向く。
「おまえ人を殺したのか」
「や、やってませんよぉっ」
 ジーナは慌てて否定した。圭太郎は唯に向き直り、ジーナを指差しながら、重大な秘密を打ち明けるような表情で口を開いた。
「やってないそうだ」
「あんたあたしをバカにしてんの?」
 唯は、圭太郎をにらみつけた。ジーナが横から慌てて弁解する。
「ホントです、信じて下さい。時々、人から精気を分けてもらったりはしますけど、そんなにたくさんじゃないから、二、三日ダルくなる程度で、すぐ元に戻るはずですっ」
「・・・・」
 唯は、この温厚そうな悪魔を、困惑の表情で見つめた。
「じゃあ、最近この近所で起こってる連続殺人は、だれの仕業?」
「さぁ・・・」
 ジーナは小首を傾げ、気弱な笑みを浮かべた。唯はため息を付き、今度は圭太郎へ顔を向ける。
「じゃ、圭太郎。聞きたいんだけど、あんた、この悪魔に、一体何をさせているの?」
「うむ。まあ何っていうか・・・・ナニだ
「こんなんばっかしだよっ、あたしの周りにいるのは!」
 唯は絶叫しつつ頭を抱えた。(←気持ちはわかる)
 一方、圭太郎は、突然口元に邪悪な笑みを浮かべると、頭にウサギの耳を付けた幼なじみの美少女を睨み付けた。
「ふっふっふ・・・それにしても何だなぁ。わざわざバニーガールの格好でやってくるとは、なかなかサービス精神旺盛じゃないか? 唯くん」
「ちょっ・・・・何するつもり?」
 不穏な気配を感じ、唯はズザザッ、と後ずさる。なおも邪悪な笑みを浮かべて唯に迫り続ける圭太郎へ、ジーナが遠慮がちな様子で囁いた。
「ご主人様ぁ、やめましょうよぉ。お知り合いでしょう?」
「どーせ記憶を消すんだから、大して関係ない」
 自分勝手なことをほざきつつ、圭太郎は、ソロモンの笛を懐から取り出して、ジーナへ高らかに命令を下した。
「ジーナ! 触手の魔物を召還しろっ。ついでにビデオカメラのセットも忘れるなっ
「ふみぃ〜ん。分かりましたぁ。・・・・ごめんなさ〜い、唯さん」
 ジーナは、半泣きになりながら命令を実行に移した。結局、ソロモンの笛の恐怖には逆らえないようだ。
 呪文の詠唱と共に、無数の触手に包まれた肉塊が現れる。ついでにビデオカメラと三脚が勝手に動き出し、撮影を始め出す。
「じっ、冗談じゃないわよっ」
 唯は慌ててその場から逃げ出した。が、一〇歩も行かない内に足を触手にからめ取られ、勢い余って転倒する。
「きゃあっ」
「ぶわっはっはっ、逃げられると思ったか? 状況から見てっ! バニーさんの耳など付けていたのがお前の運の尽きだっ。ここは一発、パーッとサービスしてもらおうっ」
 圭太郎は、悪役の演技に酔いしれながら高笑いを上げた。唯は、触手に手足を掴まれ、吊り上げられながら絶叫した。



「あーっ、もーっ! あたしってば、どこに行ってもこんな役ばっかしーっ」
 まったく持ってその通りです。
     *
 数分後。
「ひぁっあ・・・くふぅ・・・ん・・・だめぇ・・・・いやぁぁん・・・・ダメって・・・言ってるのにぃ・・・そこはぁ・・・・弱いのぉっ」
 相変わらず感度が良すぎる唯の体は、触手の愛撫に否応なく反応してしまっていた。天使や悪魔でさえ翻弄した触手を相手に、生身の人間である唯が耐えられるはずもなかった。
「ひぁぁっ、だめぇっ、バカぁっ・・・・圭太郎・・・カメラ・・・止めなさいよぉっ」
 ビデオカメラのレンズは、唯の、はしたない痴態をなめるように捉えている。
 着ていた服も下着も触手の群れに引きちぎられ、いま唯が身に付けているのは黒いハイソックスと、バニーガールの耳だけだった。
 非常に、ある種の変態好きする格好と言えよう。もちろん圭太郎は感動の涙を流して喜びまくっている
「よーし、いいぞおっ、さあ唯、そこだっ、そこでもっと身悶えるんだっ」
「ば・・・ばかぁっ・・・何、勝手なコト言って・・・・ふわぁんっ」
 ビクビクビクッ
 反発する言葉とは裏腹に、その敏感な肢体は触手の巧みな責めに身悶え、のたうち、感じまくってしまう。
 唯は、感度の良すぎる自分の体を呪わしく思ったが、それでも体中を駆けめぐる快感の波は止められない。何度も襲ってくる強烈な悦楽に、全身汗まみれになりながら、舌を出してハァハァとあえぎ、手足をケイレンさせた。
「もぅ・・・ダメぇ・・・・この・・・これ、止めてぇっ・・・ひゅくぅっ・・・こっ、こすれちゃうぅっ」
 唯の秘壺にもぐり込んだ触手のイボは、少女のGスポットを強烈に刺激した。膣内を巧妙にこすり立て、凶暴に暴れ回る。唯の肉壁はビクビクと波打ち、彼女がどうしようもなく感じていることを明白に伝えていた。
 さらに淫獣の魔手は、少女の体中に隠された敏感な性感帯を、容赦なく暴き出し、責めたてた。
「ふあっ・・・らめぇっ・・・そこは・・・感じちゃうッ・・・感じちゃうからぁっ」
 唯は、舌足らずな言い方でわめく。
「ふわわぁっ?」
 突然、触手の内の一本が、微細な振動を繰り出し始めた。その細い指の付いた触手は彼女の足の裏をくすぐり、尾てい骨の辺りをこすり出す。そしてへその周りを撫で回し、さすり始める。それは、全て唯の弱点だった。
 Gスポットを刺激されているときに体中の弱点を愛撫されてはたまらない。唯は瞬く間に高みへと突き上げられ、絶頂を迎えかけた。が、その時。
 官能の涙で潤む唯の視界に、圭太郎の姿とビデオカメラが映った。途端に消えかけた羞恥心と理性がよみがえり、唯はすんでの所で我に返った。
「だっ・・・・ダメぇっ・・・!」
 唯は唇をかんでうつむき、快感に押し流される自分を叱咤した。
(ダメっ、絶対にダメぇっ・・・あんな・・・圭太郎なんかの前で・・・・しかもビデオに撮られてるのに・・・イッちゃうなんて、死んでもできないっ)
 目をギュッとつぶり、歯を食いしばる。すさまじい快感が体中を駆け抜けるが、残り少ない理性とプライドを掻き集め、必死で耐えた。
「んくぅ・・・・あひゃあっん」
 押し寄せる津波のような悦楽が、知らず知らずの内に甘い吐息を漏れ出させる。
 唯は形の良い眉をしかめ、くじけそうになる自分を必死で奮い立たせた。だが、そんな心とは無関係に、その淫らな肉体は喜悦にブルブルと震え出す。乳首とクリトリスは痛いほど尖り、体中は灼熱の快感に汗まみれとなっていた。
「ひっ・・くふぅ・・・らめぇ・・・イッちゃう・・・カメラの前で・・・そんな・・・恥ずかしぃの・・・・・いやぁ・・・」
 もはや自分でもなにを言っているのか分からない。気が狂いそうな愉悦の前に、唯の理性は崩壊寸前だった。
「もぉ・・・いやぁ・・・・そこぉ・・・・弱いって・・・言ってるのにぃ・・・おへそっ・・・・やめて・・・きゅうんっ、くすぐらないでぇっ・・・」
 魔獣の責めは常に的確で、しかも執拗だった。
 確実に、唯が最も感じる場所を探り出し、そこを正確に愛撫する。疲れを知らない触手の攻撃は、少女を少しずつ、奈落の縁へと追い詰め始めていた。
(ふああっ・・・どうしよう・・・・・アソコが・・・・じんじんして・・・たまらないよぅっ・・・・・このままじゃ・・・・イッちゃうトコを・・・カメラに撮られちゃうぅっ・・・だれかぁ・・・助けてぇっ・・・・助けてよぉ)
 唯は心の中で泣き叫び、助けを求めてあえぎ続けた。しかし、助けは来ない。
     *
 いや。その時、助けはすでに来ていた。デュエルとロリウェル。二人の天使たちである。
 デュエルたちは、唯の頭に付いたウサギの耳が発信する特殊な霊波を辿り、圭太郎の隠れ家へたどり着いていたのだ。天使の二人は圭太郎たちが居る部屋の扉の影に隠れ、攻撃の機会をじっと窺っていた。
 ロリウェルが、小声でデュエルに囁く。
「お姉さま、あいつら、唯を責めるのに夢中で油断してるよ。攻撃するなら、今じゃないのかな?」
「んー、そうねー。でも、もうちょっと待ちましょ。ほら、いいトコだし♪」
それもそっか♪
 やっぱり助けは来ない。少なくとも唯がイッちゃうその時までは。
     *
「ふわぁっ・・・ひううっ・・・・ぐすっ・・・もぉだめぇ・・・このままじゃ・・ホントにイッちゃうよぉ・・・あふぅ・・・デュエルのバカぁ・・・ロリウェルのバカぁ・・・・」
 唯は、すすり泣きながら、押し寄せる悦楽の波に耐え続けていた。彼女の眼下では、ビデオカメラが真下からのアングルで唯のイく瞬間を捉えようとフィルムを回し続けている。
 唯は死にたくなるような羞恥を覚え、目の前が真っ白になっていくのを感じた。そんな少女の心のすき間に、絶望を伴う妖しい快感が滑り込んでくる。
「ひくうっ」
 唯の膣内でうねり狂う無数のイボは、Gスポットと周囲の肉壁をこすり立て、イソギンチャク状の触手は乳頭や秘豆、尿道口などをサワサワとくすぐり回す。
「ふわっ、ふわわぁっ」
 さらに震動する触手は肛門へもぐり込み、直腸から強烈なバイブレーションを送り込む。前後二つの穴を同時に犯され、全身の内側をかき回されるとてつもない愉悦に唯は身をよじり、のたうち回った。
 絞り出すような絶叫が、のどの奥から込み上がる。



「あはぁぁぁああっ! ふわわわぁぁぁっ、らメっ・・・・もう・・・もぉ、らメなのぉおおんっ!
 体がビクン、ビクンッ、と跳ね上がり、頭の中でいくつもの閃光が火花を散らす。爆発するような衝撃が、圧倒的な快美感を伴って少女の意識を吹き飛ばす。
 危ういバランスの上に、かろうじて保たれていた唯の理性が、とうとう音を立てて弾け飛んだ。
「あひゃあぁぁああっ! イイッ、すごっ・・・気持ちイイッ・・・・・もうダメっ、限界なのぅっ、イッ・・・イッちゃうっ・・・イッちゃうううぅううっ!」
 はしたない声を上げ、もだえ、のたうつ。もはや彼女に、正常な判断力は残されていなかった。ただ快楽の絶頂へ向けて、まっしぐらに駆け昇っていく。
「くひゃうっ、ひああっ・・・・もう・・・もう・・・」
 ついに、少女は頂点に達した。
「ふわわわわわぁぁぁぁあああああああーーーーーんっ!」
 ビュクビュクッ、ビュクッ
 秘貝から、愛液が潮となって吹き上がる。峻烈な絶頂感に気を失った唯は、体中を弛緩させ、ガックリと首を折った。
 
 と、その瞬間。
 ドガァアアアーーーーン!
 すさまじい破裂音とともに、極大の火炎弾が、触手魔獣に向けて撃ち放たれた。
 さすがの魔獣も、この不意打ちにはグラリとよろめく。触手から力が抜け、唯を床へ取り落とした。と、そこに白い翼を広げた人影が走り込み、唯の体を空中でキャッチする。
 圭太郎は、慌てた様子で突然の乱入者に視線を送った。
「何者だっ?」
「それは、あなた、見ての通り」
 デュエルとロリウェル。翼を背負った二人の美少女たちは同時にポーズを決め、ニッと笑う。
「通りすがりの、天使です♪」
 白銀の羽が周囲にパッと舞い散った。